近代数寄屋建築『東山旧岸邸』
御殿場市にある東山旧岸邸を見学してきました。
『東山旧岸邸』は、元首相岸信介が晩年を過ごした邸宅で、
昭和44年竣工、設計は寄屋建築を独自に近代化した建築家・吉田五十八によるものです。
日本で建築材料に工業生産品を取り入れる風潮が広がりはじめていたころの、
伝統的数寄屋建築の良さを近代建築で表現する、吉田五十八の試みです。
今打ち合わせ中の、新築木造住宅を建築予定のお客様は
新居にぜひとも取り入れたいご希望の一つに
“庭と一体化する大きな窓をつけたい” ということがあります。
その偵察!のためもあり、まずは気になる大開口がある居間へ。
これが庭の自然と屋内が一体化する大開口部
オープン! おお これは素晴らしい!!
さて、ここで建築屋に現れるジレンマは、
引き戸の枠を木で作ってガラスをはめ込む建具を製作するか、
アルミサッシにするか・・・
●木製引き戸の良いところ
デザインが良い、美しい、自然の風合いの味があるetc、etc・・・
建築家としては使ってみたい材料
●木製引き戸の悪いところ
痛みが早い、暫くすると隙間が出る、暑い寒い、雨漏りの心配がある、重い、値段が高い・・・
建築家としてはある意味怖い材料
●アルミサッシの良いところと悪いところ
デザインがまあ味気ない
長持ち、機密性が良い、雨漏りしにくい、安価、
シャッターや鍵もばっちり既製品でつけられる、
メーカーが莫大な時間と費用と手間をかけて研究、実験、製品化しているもので、
普通、工事会社はいつも使ってるし心配が少ない・・・
さて『東山旧岸邸』では
ここはサバッと割り切ってアルミサッシ採用!
“近代”数寄屋建築たる所以ですね。
サッシの下レールと内側の障子の敷居は全部で9枚重なるのでかなり大きな幅です。
玄関ホールへ
来客用の応接セットが置かれています
これで玄関ホールですよ。広い!!
接客和室部
近代数奇屋のこだわり、欄間には吊束がみえません。
細い金属棒で見えないように吊ってありました。
瓦で囲った石の上に、軒先から落ちる雨を楽しむため
和室の軒先には雨樋がついていません。
客用と私用を兼ねた居間
庭に面した腰窓を全開すると庭を望む最高のロケーションです。
玄関横には吹き抜けの階段室の窓
縦格子から漏れる照明の灯りが印象的です。
低く深い軒が出た玄関
寝室と奥様の部屋、風呂がある2階と書斎の他は、全て客用と私用をかねた部屋です。
自邸であるとともに常に接客を意識するつくりになっている建物でした。
自然と一体感を感じられる数寄屋の感性を保ちながら、
洋風なものを躊躇無く取り入れている風なところ、
建物におおらかさを感じました。